『基礎医学』を知ろう!

凱歌「暁に祈る」

さて、いよいよここからは国の存亡を一手に担う国防の要、独立国家『人体』の防衛省に当たる「免疫系」を他の省の防衛システムとともに詳しくご紹介いたします。

免疫系とは「疫病」すなわち伝染病などから「免れる」ための生体システムのことであり、それには様々な器官や機構が複雑に関わっています。

そしてそれは、生まれつき持っている「先天性免疫」と生活の中で獲得する「後天性免疫」の2種類に分かれます。

ただ、ここで皆さんには免疫について一番大切なことを初めに覚えておいて欲しいのです。それは…、免疫とは「自分とそれ以外のもの、すなわち『自己』と『非自己』を識別し、それを殺してしまう機能」であるということです。

そしてその中には、私たちがこの世に生まれ来るための巧妙な手法とアイディアも含まれているのです。

少し長くなりますが、細胞たちの繰り広げる生き残りをかけた侵略者との壮絶な戦いと皆を思う気持ち、そして自己を欺いてでも守ろうとする生命誕生の不思議に触れてくださいね。

そう、免疫のシステムは戦地における愛と感動の物語なのです。

では、私たちの身体を外敵から防御する鉄壁の守りを詳しく見ていくと致しましょう。

「先天性免疫」は非特異的、すなわち相手を選ばず攻撃する性質を持っており、外敵に対し素早く対応します。

まず最初の壁は、皮膚や粘膜が生体表面のバリアとして病原体に立ちふさがります。皮膚から分泌される汗や皮脂には多くの微生物に対して毒性を持つ「脂肪酸」が含まれており、また涙や鼻水に含まれる「ラクトフェリン」や「リゾチーム」は細菌やウイルスを撃?します。

気道においては咳やクシャミが異物を喀出し、消化管では唾液や強い胃酸などが外来菌を殺菌し、大腸に住む腸内常在菌たちはよそ者に栄養を渡さず病原菌を飢えさせその繁殖を抑制します。

しかし、それでも繁殖した場合には、わざと下痢を引き起こし常在菌ごと敵を体外に排出してしまうのです。

また尿路においてはオシッコの流れによって、膣内においては酸性に保たれたその環境が外敵の体内への侵入を阻止しています。

でも時にはその障壁を越え、体内に侵攻してくる強者もいますのでそのような場合に備え生体は「白血球」という外敵に対する軍隊を常時待機させているのです。

そして各組織には白血球の一種である「単球」が血管から組織に出て姿を変えた「マクロファージ」という名の大食細胞が待ち構えていて自分以外の細胞は何でも選ばずどんどん食べてしまうのです。

でも、どのようにして白血球たちは、自己とそれらを見分けているのでしょう?

それは、自己の各細胞に付けられた自分を証明するための名札によってなされています。

その名札は「クラスⅠ-MHC分子」と呼ばれ、自己の細胞であれば形や性質がいかに違っていても全く同じ名札が付けられているのです。

しかし、自己の細胞はウイルスなどにひとたび取りつかれると自らウイルスの断片を名札にくっ付けて名札の形を変えてしまいます。

こうなってしまっては、もう自己を証明することが出来ません。

ウイルスなどに感染した細胞はこうして…、「もう僕は、君たちの仲間ではないんだよ …」と、皆に知らせ自分が犠牲となり自分ごとウイルスを殺してもらうことで他の仲間に感染がおよぶことを食い止めようとするのです。

悲しいドラマですが、自身という社会を成り立たせ、仲間を助けるためには、自ら犠牲になることも時には必要なのですね。

私たち人間社会も自己中にならず、他者を思いやれるよう「人体」という国の国民を見習いたいものです。

「後天性免疫」は、同じく白血球の一種であるリンパ球たちが担っており、それは獲得免疫とも呼ばれ「特異的」すなわち、特定の相手に対してのみ攻撃を加える専属部隊として待機しています。

しかし、外からやって来る敵は何万種にもおよびます。

では、どのようにしてリンパ球たちはその膨大な敵を見分け、また各々に対する専属部隊を作りあげられるのか、その仕組みを探ってまいりましょう。

リンパ球には、司令官である「ヘルパーT細胞」を筆頭に、殺し屋「キラーT細胞」、専用の武器を作る「B細胞」など、何でも食べるマクロファージとともにそれぞれ違う役割を 担っています。

マクロファージは組織内に入ってきた敵(抗原)を食べたあと、その断片の一部を、血液中を流れながら常に全身をパトロールしているヘルパーT細胞に手渡します。またB細胞もマクロファージと同じように抗原の断片をヘルパーT細胞に手渡します。

そして、抗原の断片を受け取ったヘルパーT細胞は、それを分析し非自己だと認識すると「サイトカイン」という物質を出してマクロファージやキラーT細胞・B細胞を活性化させ、抗原の集団に総攻撃をするよう命令します。

その時、B細胞はそれぞれの抗原に対し専用の武器となる「抗体」という物質を作って抗原に攻撃を行います。敵を捕まえてその弱点を研究し最も効果的な武器を作るというわけですね。

つまりこれが人体の最強部隊が持つ戦闘システムなのです。

しかし…、ここで重大な問題が一つ生まれます。

それは何を隠そう、私たち人間がその命を未来へとつなげるために絶対に必要な「妊娠」という現象なのです。

妊娠は父親の精子と母親の卵子が受精して始まります。でも、それこそが大問題なのです。

つまり、母親の卵子は「自己」の細胞であるものの、父親の精子は「非自己」であり、受精卵はまるでウイルスに感染した自己の細胞と同じ状態だと判断されてしまうのです。

これでは母親のキラーT細胞にすぐにやられてしまいます。

では、胎児は如何にして母親の免疫機構から自分の身をを守っているのでしょう?

それは名札をまるまる隠してしまい「自国民」か「外国人」かをわからなくさせその攻撃から免れているのです。しかしここで安心してはいけません。キラーT細胞以外にも「ナチュラルキラー細胞」という名札を付けていない細胞を狙う殺し屋がいるのです。

そこで胎児は隠している「クラスⅠ-MHC分子」の名札の代わりに「HLA-G」という人類共通の名札を出してナチュラルキラー細胞からの攻撃をかわそうとします。

またそれと同時に胎児の細胞からは、母親の免疫機構を邪魔する物質も放出されるのです。妊娠という現象は、このように二重三重の作戦によって継続され、この困難を乗り越えた者だけが奇跡に近い確率でこの世に生まれ来ることが出来るのです。

そして勿論、あなたもその選ばれし者の一人です。

自分だけのものではない大切なその『生命』私たちは最期まで責任を持ってその命に真摯に対峙していかなければならないのです。

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